なぜ今「看護師の在り方」を問い直すのでしょうか。
医療や介護はさまざまな局面において限界に達しています。健康保険制度や介護保険制度の限界、少子高齢化による人手不足、効率化の限界、感染症やIOT対策にかかる資金難、多くのスタッフが慢性的に感じている疲労感。その結果、起こっている看護師の離職増加や燃え尽き症候群…。
中小規模の病院や介護施設、訪問看護ステーションが多数倒産に至ったとしても、大企業による一元化によって、看護師の働き口が失われることはないかもしれません。ですが私たち看護師は、もうブラックなところでは働きたくないし、やり甲斐の見い出せない現場では続かないことがわかっています。危機的な状況だからこそ、転職れあれ、起業であれ、「自分で選び直す」ということが必要なときではないでしょうか。
あなたが″想い描く看護”が実践できる場所は、いったい何処にあるのでしょう?
1. 既存の医療の価値観とは
当たり前ですが、医療は「治す」ということに価値が置かれています。しかしながら「治す」に価値が注がれているかぎり、「予防」や「健康維持」には至りません。言い換えると、既存の医療は病気になるのを待っているだけで、しかも診療報酬点数にならないことは極力行わないのが現状です。あなたはそれで満足ですか?
またこれも当たり前のことですが、病院では命を守ることを全身全霊で行います。しかしながら病院外で「死」に直面している人も少なくありません。精神疾患による自死だけでなく、介護自殺、介護殺人、乳幼児の虐待なども。どこかで医療者が関わっているはずなのに、なぜ予防できないのでしょうか。なぜ問題意識を持たないのでしょうか。手に負えないから?それは自分自身の心と一致していますか?
2. 看護師の役割に生じている“ズレ”や違和感
「医師の指示に従う」という制約が、看護を狭めているように感じます。それは医療機関だけでなく、介護においても同じ。重なっている部分はあるけれど、そもそも医業と看護は別ものだと思います。医業は治療と行うことが役割ですが、看護は生活に密着しています。医師には見えない部分を看護師は見て、医師にはない智恵が看護にはあると思うんですね。いかがでしょうか。
あなたは「先生に聞いてみるね」「一度診てもらったら?」というとき、むずがゆく感じませんか?看護師は医者の使いっ走りと言う人がいますが、それはこうした言葉から感じ取ったのだと思います。ですが、そうではなく、看護の視点で、看護師にしか言えないことがあると思うのです。もしあなたが『そういうことを言ってくれる看護師さんがいてくれて嬉しい』と言われたらどうでしょう?看護の知識と経験は、日常生活や予防に活かすことが可能です。
3. 「看護師の新しい在り方」とは?
私たちは『看護は最上位概念』と捉えています。病院にも介護にも多職種ありますが、看護師は一通りの職業を理解しており、その患者または利用者に対し、今どういうことを行なっているかについてある程度把握することができています。たとえば、処置や点滴は医師ができ、薬の管理は薬剤師が可能で、栄養管理は栄養士、運動機能は理学療法士、歯は歯科衛生士、検査は検査技師、身体ケアは介護士ができるため、まるで看護師の必要がないように感じます。
しかしながら実際のところは、それらの職業を理解し、患者や利用者やその家族を中心に多職種をつなぎ、常に包括した視点で看ることが出来るのが看護師なのです。看護師はオールマイティだからこそ全体をマネジメントすることが可能で、緊急時には即断できる技量を持ち合わせています。
また、看護師は「命の誕生」から「死」まで関わります。助産師は産前・産後、保健師は生活面、介護士は高齢者と限定的ですが、看護師は人生のすべての時期において、あらゆる状況の人と関わります。いわばすべての職業、生き方に寄り添うのが看護です。という意味において『看護は最上位概念』と定義づけています。
4. 実際に既存の価値観から離れた看護師たちの例
2021年の日本看護管理者学会学術集会にて、当方主催で3回開催した『ナースサミット』の報告を行いました。ナースサミットは、病院や施設の枠を越えて看護師同士が出会い、情報共有を行い、絆をつくるという趣旨で開催していました。会場の前方では保険外で活動し始めた看護師がスピーチリレーを行い、後方では看護師が体験ブースを出展し、参加者は全員看護師でした。
スピーチでは、教育・カウンセリング・訪問看護などで独立・起業している看護師はスピーチを行い、フットケア・セラピー・体操・ヨガ・音楽・占星術・さまざまな機器や情報を元に性格診断や健康診断を行う看護師などがブースを出展しました。2017年開催時は当方から依頼しましたが、翌年の開催時は希望者が急速に増加しあっという間に埋まりました。そして2021年はセルフケアに関するテーマが大半を占めました。
会場までの旅費交通費や一部の出展料は実費でしたが、報酬のない活動であっても出展する看護師は意気揚々としていました。昼食を摂る間もなく一日フル活動し、終了時には頬を真っ赤にして充足感あふれる看護師も多くいました。いかがでしょうか?看護は最上位概念だからこそ、無限の可能性があるのです。
5. 「新しい在り方」に向けてできること
当方では、上記のようなイベントだけでなく、看護師向けのビジネスプログラムの開講、フリーランスナースの最初の一歩を支える会など、数千人の看護師に出会ってきました。「看護師の新しい在り方」に向けてできることを記述します。
①情報収集
●「はじめに言葉ありき」という空海の真言にあるように、すべての始まりは情報です。
●情報がなければ、私たちは思い込みから出ることができず、同じところに留まり続けるのです。
●インターネットを活かして、他の看護師の活動から情報収集を始めましょう。
②心身のケア
●感情的になっていたり、疲労やストレスを抱えた状態で、新たなことに取り組むのはしんどいですし続きません。
●創造力は自分自身が整っているときに発揮されます。
●小さな違和感に気づき、ケアする習慣を身につけましょう。
③「心」「思考」「行動」を合わせる
●やりたいことを見つけるには、自分に対して正直になる必要があります。
●私たちは常日頃、社会生活を円滑に営むための仮面をつけており、その仮面を外して内面の自分と向き合いましょう。
●心の深い部分で感じたことを言葉にし、言葉にしたことをそのまま実行するという日々の積み重ねが、自己信頼感を育てていきます。
まとめ
「ピンチをチャンスに」「幸せは不幸の仮面をつけてやって来る」など言われますが、この危機を嘆いて流されるだけか、新たな世界へ一歩踏み出すかは、自分で選ぶことができます。法的には医師は医療法人の設立が可能で、助産師は助産院の設立が可能です。看護師は訪問看護ステーションが可能です。ですが保険制度内の活動であるということに変わりありません。
私たちが「こうあるべき」から自由になり、理想の生き方で看護をしたいのであれば、株式会社や社団法人の方が良いかもしれません。あなたにとって、看護とは何でしょう?私たちがいる世界は、言葉にしなければ無いも同然なのです。まずは心の中にある『理想の看護』を言語化することが、未来を選び直すきっかけになることと思います。

  
     
     